摘要
減成カラゲニンdegraded carrageenanは紅藻由来の硫酸多糖類で, 経口投与により種々の実験動物の大腸に潰瘍性病変を発生させる事が知られている. さらに連続長期経口投与により, ラット結腸直腸粘膜に対して発癌性を有する事が明らかとなった. 減成カラゲニン発癌の過程は, 先ず歯状線部のびらんに始まり, 次いで扁平上皮化生が起り, やがて腫瘍の発生をみる. 著者は, 減成カラゲニン発癌の前癌病変としての扁平上皮化生に注目し, その特徴を多角的に検討した. 扁平上皮化生の可逆性をみる実験では, SDラットに10%degraded carrageenan含有飼料を4, 8, 12週与え, その後放置し実験開始後27週目に屠殺剖検した. その結果, 扁平上皮化生巣は全例に残存し, 非可逆性の病変である事が確認された. 次に減成カラゲニン短期投与後長期放置した際の発癌性をみる実験を行った. F-344ラットに10%degraded carrageenan含有飼料を2, 6, 9か月与え, その後放置し実験開始後18か月目に屠殺剖検した. その結果, 大腸腫瘍発生率はそれぞれ12.8%, 19.0%, 40.5%であり, 減成カラゲニン短期投与でもやや低頻度にはなるが発癌性を示した. 腫瘍は扁平上皮癌が優位であり, しかも扁平上皮癌は全例扁平上皮化生巣から発生した. この扁平上皮化生の特徴は組織学的に投与週令に比例して上行性に伸展し, 乳頭腫の形成・過形成・glandular involvementを示しdysplasticな変化を経て発癌に至るが酵素組織化学的には前癌病変としての扁平上皮化生に特徴的なマーカーを見い出す事はできなかった. また, 3H-thymidineを用いたラジオオートグラフィーによる検索では, 肛門扁平上皮の先端部である, いわゆる歯状線部の基底細胞層に取り込み細胞が集中していた. 扁平上皮化生では基底細胞層にびまん性に取り込み細胞が出現した. 一方, 10%degraded carrageenanの注腸実験を行ったが, 経口投与例とほぼ同様の結腸直腸病変が出現し, 初期病変の発現に関しては腸内細菌叢は影響がなく直接作用による事が示唆された.