摘要
老年者における内分泌環境, とくにsteroid分泌が, たんぱく同化に関与するsteroidの低位, 異化に関与するsteroidの優位という状態で, そのいとなみをつづけていることはほぼ確実と思われる. そこで, われわれは体内でたんぱく同化に関与するsteroid分泌が絶対的に低下している場合の脂質代謝を研究するとともに, たんぱく同化steroidと脂質代謝との関連を研究するために, 生後2~3年の老熟白鼠の脂質, とくに不可欠脂肪酸の態度を研究し, さらに老熟白鼠に合成たんぱく同化steroidを投与してその影響について観察した.副腎, 肝, 血清中の総脂質, 総コレステロールならびに不可欠脂肪酸は, いずれも老熟白鼠が若年白鼠に比し高値を示したが, とくに副腎中のリノール酸およびアラキドン酸は老熟白鼠で著しく高値を示した.次に, 老熟白鼠に合成たんぱく同化steroidを投与しても, 副腎, 肝, 血清中の総脂質は減少しなかつた. また, 副腎中アラキドン酸は明らかに減少したが, 血清では減少がみられず, むしろ増加傾向さえ示した. 一方, たんぱく同化steroidの標的臓器と思われる腎, 挙肛筋, 横隔膜などにおけるアラキドン酸は, 若年白鼠程明らかな増加を示さなかつた. これらのことは体組織, こおけるたんぱく生成の促進化のためのアラキドン酸の利用が, 老熟白鼠では低下していることを示している.以上の成績から, 老年期における体内の脂質成分の増加は, 脂質異化抑制のためであり, かつ, また, 脂質成分の体組織への利用が老化とともに低下していることが推定される. そしてこの場合, variable elementとしての脂質成分ととも, constant elementの意義をもつ不可欠脂肪酸の利用もまた, 低下していることが知られた.