ストレス性精神障害の発症機序には、ストレスによって刺激されたcAMP-cAMP response element binding protein (CREB)・カルシウム-カルモデユリンキナーゼ-CREBといった細胞内情報伝達系の活性化を介した脳内遺伝子発現の変動が密接に関与しているという仮説に基づいて、ストレスによるラット脳内CREBリン酸化-脱リン酸化バランスについて検討した。拘束ストレスによって大脳皮質前頭部・海馬内のCREBリン酸化は有意に亢進し、ストレス脆弱個体ではストレス性CREBリン酸化亢進が顕著であることがわかった。同時に拘束ストレスによるCREBリン酸化亢進状態をFK506処置によって持続させた状態では、ストレス性 c-fos mRNA 発現が単なる拘束ストレス負荷群に比較して有意に亢進していることが明かとなった。リン酸化CREB(p-CREB)の脱リン酸化に関与するカルシニューリン(CaN)の発現やファオスファターゼ活性に及ぼす、ストレスの影響を検討した。拘束ストレスによってCaNの発現は影響を受けなかったが、活性は有意に亢進するこが明かとなった。このような一連の実験結果は、ストレス性精神障害の発症にストレス負荷によるCREBリン酸化亢進を介した遺伝子発現が密接に関与していることを示している。従って今後はCREBのリン酸化亢進のメカニズムの解明や標的遺伝子の探索を推進することが、本障害の治療に有効な薬物をみつける有力な鍵になると思われる。